―贈り物―
季節は冬。あらゆる建物には暖房器具が着けられる。
しかし、中には例外があった――。
「えー…。教室内の暖房が故障しました。
よって皆さん、授業中は防寒具の着用を認めます。各自防寒を行ってください」
『えーーー!?』
生徒達の悲鳴が冬の空に響いた。
「あ〜寒い…。それもこれも…ぜーんぶ!ストーブの故障のせいだわ!」
「仕方が無いよ〜アリサちゃん落ち着いて…」
イライラしているアリサを宥めるすずか。
「…アリサちゃん同感や…。正直わたしは、凍死しそうやで!!」
ガタガタとカイロ片手にはやてが怒鳴る。
勿論全員コートは着ている。だが、女子高生は必然的にいつも肌を見せなくてはいけない所がある。
「…なんで日本の女子高校生は、足を出さなくてはいけないんだろう…」
フェイトが呟いた。冷えは足から来るというのに、足を守るのは靴下のみ。はっきり言えばおかしい。
「そうよ!常にスカートなんて可笑しいのよ!! おかげで、ほら…なのはが…!」
アリサがなのはを指差す。
「…お、お腹痛い…」
あまりの寒さになのはは机に突っ伏し呻っていた。
「な、なのはちゃんどうしたん…?」
はやてが恐る恐るすずかに聞く。
「なのはちゃん寒さに弱いのよ…。だからこの季節、結構辛いんだよね…」
「暖房点いててやっとって感じなのよね〜。ほら!」
アリサがため息をつきながら、なのはに自分のコートをかける。
「そ、そうなんだ…。なのは大丈夫?」
フェイトはなのはに不安げに聞いた。
「え…ああ。大丈夫だよ〜全然平気!」
血色が悪いなのはに言われても説得力など無い。
むしろ、保健室や暖房の聞いた別の施設に運んだ方がいい気になってくる。
「なのは…説得力が無い」
「うん…わたしもそう思うよ?なのはちゃん」
「同感や」
口々になのはに言うアリサ達。
(なのは辛そうだな…。私に何か出来ること無いかな…。 ―そうだ!!)
フェイトは閃いた。
(なのはにひざ掛けをあげよう!)
フェイトはなのはの手を握り言った。
「待っててなのは!私、頑張るから!」
「え…?うん…」
その日の内にフェイトは毛糸を大量に購入し、ひざ掛けを作った。
既製品で済ませる選択肢は無かったのだろうか…。
プレゼントはやっぱり手作りがいい!byフェイトあ、わかりました…。
三日後。フェイトは、ひざ掛けを紙袋に入れ登校した。
(局の仕事で遅刻しちゃったけど…なのは喜んでくれるかな〜)
スキップをしながら教室のドアを開ける。
そこにはいつものメンバーが話していた。
「おはよ〜みんな!」
フェイトは笑顔で挨拶をする。
「あ、おはようさん。フェイトちゃん」
「おはよう。フェイト」
「おはよう〜フェイトちゃん」
アリサやはやて、すずかも挨拶を返す。
「おはよう!フェイトちゃん!!」
なのはが上機嫌で挨拶をする。
「おはよう!なの…は…?」
フェイトは、なのはの姿を見て呆然と立ちすくんだ。
なのはの膝に、オレンジ色のひざ掛けがあった。
「なのは…それ…」
フェイトは恐る恐るなのはに尋ねる。
「ああ、これお母さんが買ってきてくれたんだ〜!暖かいよ!」
普段は癒されるなのはの笑顔にフェイトは…。
「…なのはの…ど馬鹿ーーー!!大好きーー!」
泣きながら走り出す。
「え!?フェイトちゃんー!?」
焦るなのはを置いてフェイトは教室から消える。
「…大好きって…フェイト」
「まあ…フェイトちゃんらしいからええやん」
「そうだね…」
呆れながらアリサが地味にツッコミを入れ、はやてはアリサの肩を叩く。
「わたし何かした!?」
なのははすずかに聞いた。
「うーん…わたしに聞くより本人に聞くといいよ。なのはちゃん」
困惑顔で答えるすずか。
いまいち状況を理解できてないなのはにはやてはため息を漏らし、
すずかは苦笑い、アリサは額に手を当てて考え込んでいる。
「…なのは、さっさとフェイトを追いかけなさい」
「え?」
「そうや、なのはちゃん行ってまえや!」
「わ、分かった!行ってくる」
席を立ち駆け出すなのは。
「フェイトちゃーんー!待って〜!」
なのはが教室を出た瞬間。
『ふーーー』
アリサ、すずか、はやての盛大なため息が響く。
「なのはは、鈍感で」
「フェイトちゃんは天然」
「だね」
その頃なのはとフェイトは―
「待ってフェイトちゃん!」
「…ついて来ないでなのはの馬鹿!!」
「な!?馬鹿って…、それは無いでしょフェイトちゃーん!」
流石魔道師というべきか、ありえない速度で走っていた。
二人が通り過ぎた後には、廊下の展示物がことごとく吹き飛び、
先生の怒号が響き、すれ違う女子生徒達のスカートは捲れた。
追いかけっこにしては高レベルである。
そして、いつの間にか屋上へと着いていた。
「くっ…バルディッシュ!」
「させないよ!レイジンクハート」
なのはは、咄嗟にフェイトの手元にあるバルディッシュを打ち抜いた。
砲撃魔道師らしく、早撃ちも得意らしい。
「さあ…お話聞かせてね!フェイトちゃん!!」
「う・・・」
フェイトはなのはを睨みながらもしぶしぶなのはに従った。
結局なのはには弱いフェイトである。
「…え?ひざ掛けを作ってくれたのフェイトちゃん…」
「う、うん…。これなんだけど…」
紙袋から出したのは、緋色とオレンジ色の横縞模様のひざ掛け。
手作りの品らしく、ところどころ編み方が違っていたり、
端っこの糸がほつれていたりと、作った人の思いを感じさせる一品だ。
「わ…これ手作り?」
「うん…一応、不格好だけどね」
フェイトからひざ掛けを受け取りなのはは笑った。
「ありがとう。フェイトちゃん」
「…でも使わないでしょ…?」
既になのはには、ひざ掛けがある。フェイトのは不要だ。
それでもなのははフェイトのひざ掛けを抱きしめる。
「ううん。フェイトちゃんのを使うよ勿論!」
「え…?でも勿体無いよ…」
フェイトがなのはを見て聞いた。
「うーん…でも…」
なのはは早速ひざ掛けを使っていた。
「フェイトちゃんが作ってくれたせいかな…。あのひざ掛けより暖かいよ?」
「……………!」
フェイトはその言葉に反応し、なのはを見た。
「…なのは…、大好き!!」
「わたしもだよ!フェイトちゃん」
その後。なのははフェイトお手製のひざ掛けを使い、
フェイトはその度しまりの無い顔で笑っていた。
余談だが、ひざ掛けをなのはにプレゼントした数日後に、
余った毛糸で作ったマフラーを、フェイトはなのはにプレゼントしたのだった。
おわり