「というわけで、今日はカラオケにやってきました〜っ!」
「突然すぎるだろ! 少しはこうなるに至った経緯とか説明しろ!」
カラオケボックスの中に少年の叫び声が響く。
「ええやんええやん、別に説明なんて」
「その説明をしないと分からない人が大勢いるのでは………?」
「今日は歌うぞ〜!」
突然身を乗り出して叫んだ少年を、数名がかりでぼこぼこにする。
「あのバカは沈めたとして、本当に説明くらいしとけよ、はやて」
「は〜い、今日はなのはちゃん、フェイトちゃん、お兄ちゃん、牧原くん、皇くん、そして特別ゲストの子、
プラス司会進行役も勤めさせていただきます、私、八神はやての七人で夜通し歌うで〜!」
「空気と流れを読めこの馬鹿〜!」
「ほなそれでは早速、一番手なのはちゃ〜ん!」
どこからか巻き起こる拍手と口笛の雨あられ。
その中で恥ずかしがりながらなのははマイクを持つ。
「そ、それでは、一番高町なのは、歌います!」
一段と高まるその場のテンション。
ちなみに少年は最初から参加する気は無い。
「風より速く君の心へ すべりこんで根こそぎ包みたい♪
空より蒼くすんだ瞳が 見つめる全てを今感じたい♪
繰り返される戦いの果て 信じるものがたとえ揺らいでも♪
力の全て ぶつかりあって 生まれる愛もあると信じたい〜♪」
わーわーきゃーきゃーと巻き起こっていく歓声。
顔を真っ赤にしつつ、なのははマイクを手放す。
「それでは二番手、八神はやて、歌います!」
はやてがテーブルに放置してあったマイクを奪う。
「再び見る世界は 塵と残像 淡い影♪
凛とした背中にはその全てを背負う覚悟がある♪
どうしたいの? どうして?
孤独な旅 そう決めたはずだったのに♪
この手を離さないで 君から伝わる思いから 心に眠る願いが目覚める♪
強い視線の彼方 迷いない二人の姿が見える だから進むの更なる時へ♪」
「一番丸ごと歌うのかい」
「それでは次、三番手は牧原くん!」
「無視か」
もはや炎髪の少年、八神ひかるの突っ込みもはいりそうに無い。
その間に、牧原聖はマイクを持って歌いだす。
「立ち上がれ・・・ 天使は僕のそばにいる♪
壊れそうな夢を守らなきゃいけないんだ―――――♪
立ち上がれ! 勇者は僕の中にいる♪
そびえ立つターゲット 負けるわけにはいかない♪
燃え上がれ! 鼓動は胸を焦がしてる♪
忘れられた明日 取り戻しに行くんだ♪
熱いバトル起こせ〜♪」
「次は俺だァァァァァァ!」
「じゃかましいわァァァァァァァ!」
マイクを取り上げた茶髪の少年、皇紅(すめらぎこう)をひかるが蹴り飛ばす。
彼の手から零れ落ちたマイクはジュースを飲んでいたフェイトの手に収まる。
「え? わ、私?」
きょとんとしているフェイトをはやてが壇上まで上らせる。
「それでは拍手〜」
「よ、四番フェイト・テスタロッサ・ハラオウン、行きます!」
はやてたちの拍手の中フェイトが歌う。
「抱きしめていたい 君だけ壊すほどに 絶望の木の下で願う♪
今曲が止まり 変わりに月を見れば 僕は僕は歩けるのでしょうか………?
I wish that hreat will go on…」
わーわーと歓声が巻き起こる。
「それでは次は、皇くん!」
「待ってましたァァァ!」
ビクッとしたフェイトからマイクを奪い取る紅。
そのままの勢いで彼は歌いだす。
「胸にこみ上げてく 熱く激しいこの思い♪
僕らは行く 最後の戦場へ 手を取り合い 誓い合って♪
明日の夜明け前に あの宇宙へと旅立つのさ♪
僕らが地球にいたことだけ どうか覚えていて欲しいよ♪
振り向くな! 涙を見せるな♪
I GET THE POWER OF LOVE♪
明日を取り戻すんだ♪
GONG鳴らせ!
今こそ立ち上がれ 運命の戦士よ!
稲妻の剣で 敵を蹴散らせ!
安らぎを夢見る 鋼の勇者よ!
守るべき未来と 愛を信じて♪
永遠へ! 永遠へ!」
「次はお前じゃァァァァァァァァ!」
紅がひかるめがけてマイクを投げ飛ばす。
ひかるはそれを華麗に避ける。
「なぜ受け取らないんだよ!」
「めんどい。 それにもともと歌う気はねーよ」
けだるそうにグラスを傾けるひかる。
「え………、ひかる、歌ってくれないの?」
フェイトが上目遣いでひかるのことを見上げる。
「ここまで来ておいてそれはないんじゃないかな?」
なのはが俗に言う冷徹なオーラを出しつつ迫る。
「う………、わかった、分かりました」
しぶしぶといった感じでマイクを手に取るひかる。
と同時にスピーカーからギターとドラムの音が流れ出す。
「街角は色めく 少女らの縄張り♪
寂しがりなおさげ 旋風に揺れて♪
耳障りな誘惑 花椿の香り♪
雲無しの午後には 僕の修羅が騒ぐ♪
焼け付く思いは憂い募らせる♪
重なる面影を見つけては項垂れている♪
一、誰か僕の♪
二、火を消して♪
三、飛ばしてくれ♪
四、イエイエ♪」
「次は〜、私!」
はやてがひかるからマイクを掻っ攫う。
「何も知らないほうが幸せというけど♪
僕はきっと満足しないはずだから♪
うつろに横たわる夜でも♪
僕が選んだ今を生きたい それだけ♪
君の速さは僕に似ている♪
歯止めのきかなくなる 空が怖くなって♪
僕はいつまで 頑張ればいいの?
二人なら終わらせることができる♪」
「次は………」
「俺と牧原だ!」
はやてからマイクを投げ渡される二人。
「「擦れ違い急ぐたびに ぶつけ合い散切れあう♪
互いの羽根の痛み 感じている♪
寂しさに汚れた腕で抱いた♪
それ以外の何かを知らないから♪
つながる瞬間 目醒める永遠 待ち焦がれる♪
速過ぎる時の 瞬きに晒されて♪
独りでは届かない願いなんて 消えそうなコトバじゃ………
辿り着けない♪」」
大混戦となっているカラオケボックスの中で、少年はグラスを傾ける。
と、その目の前に三人の少女が現れる。
「君、さっきから歌ってないよね」
「ハイこれマイク」
「というわけで歌う場所はあちらでございます〜」
勢いに圧倒されるがままに緑に灰色を混ぜたような色をした髪の少年はマイクを持つ。
「………それじゃ、歌います」
とたんに巻き起こる大歓声、といっても五人分。
ため息をつきながら少年は歌い始める。
「何故戦うのか それは剣に聞け♪
正義だとか愛など俺は追いかけない♪
闇に生まれ 闇に忍び 闇を切り裂く♪
遥かな 古から受け継いだ 使命だから♪
行け! 疾風のごとく 魔戒の剣士よ♪
月満つる夜に 金色になれ♪
雄おしき姿の 孤独な戦士よ♪
魂を込めた 怒りの刃 叩きつけて
時代に輝け 牙狼!」
「よーしゃ! 今回はこれで締めだ!」
そういいながら紅はひかると聖を壇上に引きずり出す。
しかもご丁寧に少年もつかんでいる。
「俺も………?」
「ご愁傷様」
「犠牲者は俺らもだぞ」
そうは言いながらもマイクを持つ二人。
そして、曲は流れ出す。
『明日へ続く坂道の途中で すれ違う大人たちはつぶやくのさ♪
「愛とか夢とか理想も解るけど 目の前の現実はそんなに甘くない」って♪
つまづきながらも転がりながらも カサブタだらけの情熱を忘れたくない♪
大人になれない僕らの強がりをひとつ聞いてくれ♪
逃げも隠れもしないから笑いたいやつだけ笑え♪
せめて頼りない僕らの自由の芽を摘み取らないで♪
水をあげるその役目を果たせばいいんだろう?
何度も繰り返した失敗とか 大きく食い違った考えとか♪
僕らの基準はとても不確かで 昨日よりなんとなく歩幅が広くなった♪
背伸びをしながら 打ちのめされながら カサブタをちょっとはがすけど答えは出ない♪
大人になりたい僕らのわがままをひとつ聞いてくれ♪
寝ても覚めても縛られる時間を少しだけ止めて♪
せめてふがいない僕らの自由の実を切り取らないで♪
赤く熟すその時まで悩めばいいんだろう?
大人になれない僕らの強がりをひとつ聞いてくれ♪
逃げも隠れもしないから笑いたいやつだけ笑え♪
せめて頼りない僕らの自由の芽を摘み取らないで♪
水をあげるその役目を果たせばいいんだろう?』
喧騒に包まれていくカラオケボックスの中で、少年はひとつだけ思った。
「やっぱり、騒がしいのは苦手だ………」