夕食後の八神家で、ひかるたちはテレビを見ていた。
テレビでやっているのはバラエティー番組で、
数々の芸人が参加している、今流行のものだった。
「あはは、こりゃ結構面白いわ」
「つーかこいつ爆笑! 格好がまずおもしれえ!」
素直に笑いを楽しむひかると笑い転げ回るヴィータ。
その両者を見守るシグナムと微笑を浮かべているシャマル。
そしてキッチンで後片付けをしているはやてだ。
「んー、こいつはいまいち」
「それは同感」
「私はこの人の前の人がよかったです」
「私も同意見だ」
四者四様の意見が乱れる中、やっとはやてが片づけを終わらせた。
そしてやってきたはやてはさりげなくひかるの隣に座る。
それを見ていたシグナムが眉をひそめるがはやては気にしない。
そしてそれに起きてきたリインにザフィーラをあわせ、六人と一匹がテレビの前に集まる。
しばし続く一家での団欒。
しかしそれも番組の終了とともに終わりを告げる。
比較的早寝のシグナムはベッドに入り込んだし、
シャマルやザフィーラはベランダで星を見ている。
ヴィータはゲームに夢中になっていて、
リインフォースUはその隣で様子を見ている。
そしてこのときを絶好のチャンスと見たのか、
はやてがひかるの傍による。
「なー、お兄ちゃん、頭洗ってくれへん?」
上目遣い+甘えた感じの声で頼み込むはやて。
目的は……、あまり言えないことである。
「別にいいけど。 さっさと入っちゃおうや」
ものすごくあっさりそれを承諾したひかると一緒にはやては風呂場に向かう。
「えーと、どっちが先に入るの?」
「う、えーと、お兄ちゃんからで………」
はやてが頬を赤らめる。
「それじゃお言葉に甘えて」
そう言うとひかるは服を脱ぎ始める。
一分もしないうちに裸になりタオルを腰に巻いて風呂に入るひかる。
その後三分ほどしてバスタオルを体に巻いたはやてが風呂場に入ってくる。
「はやて、シャンプーない?」
「あるよ、ちょい待ってぇな」
はやては戸棚からシャンプーのボトルを取り出すと手にそれをかける。
そして軽く泡立ててからひかるの頭をわしゃわしゃと洗っていく。
「ちょっ、おい!」
「えーやんか、かわいい妹が頭洗ってくれとるんやでー?」
「違う!シャンプーが目に………っ!」
「ふぇ!? ご、ごめん!」
はやてはシャワーでひかるの頭についた泡を洗い流す。
そしてひかるの顔にシャワーを浴びせ、目に入ったシャンプーをとる。
「あーくそ、目擦るんじゃなかった………」
「ご、ごめんなさい………」
「もういいや、それよりも背中流してくれない?」
「は、はーい」
はやてはボディソープを手にとり泡立てる。
そして十分に泡立ったそれをひかるの背中に塗りつけていく。
「今回は失敗なんてせーへんよ」
「………背中洗ってて失敗するとか聞いたこと無いぞ」
「そ、それはいいっこなしや」
はやてはぎこちない手つきでひかるの背中を洗っていく。
よく泡だったボディソープがひかるの背中全体に広がる。
そしてある程度、なおかつきっちり背中を洗ったあとに、
はやてはシャワーで泡を洗い流す。
心地よいぬるま湯がひかるの背中の泡を下へと洗い流してゆく。
そして完全に泡が流れ落ちたところではやてはシャワーを止める。
「はい、じゃあ交代ね」
「はーい♪」
ひかるが座っていた風呂場用のいすにはやてが座る。
その間にひかるはシャンプーを手際よく泡立てる。
「うりゃ」
わしわしとはやての頭を洗っていくひかる。
「あはは、おにーちゃんあらうのじょーずやわ〜」
「オールひらがなかい」
「のわっ!」
突然顔を抑えるはやて。
「ど、どした!? 大丈夫か!?」
突然の出来事に慌てるひかる。
「へっへー♪」
「あ?」
ひかるが呆然としているとはやてはペロッと舌を出して、
「どや、私の演技。 だまされたやろー?」
とふざけながらに言う。
「ヤロ………、許さん!」
「ふぇ? のわーっ!」
はやての頭を押さえつけてがしがしがしと洗っていくひかる。
あまりに力が強いのか、ひかるの手から逃げようとするはやて。
そのはやてを押さえつけてひかるはお湯をはやての頭にかける。
程よく温まったお湯がはやての頭のシャンプーを綺麗に洗い流す。
「はい、終わりっ! 次は背中か?」
「あの………、お願いやから今度は優しく………」
洗って欲しいという言葉が出る前にひかるははやての背中を洗い始める。
「………なにびくついてるんだよ」
「だって………、その………」
「大丈夫だっての、さっきのはじゃれてただけです」
「ほんま……………?」
涙目でひかるに尋ねるはやて。
それを見たひかるの心に何かがぐさりと突き刺さる。
「本当だっての、そんなに心配しなくても大丈夫だってば」
「………お兄ちゃん、ありがとな」
「なっ…………」
突然のお礼に顔を赤らめるひかる。
「別に、たいしたことはやってません」
「えへへ」
その後、少し甘めの雰囲気の中はやての背中を洗っていくひかる。
女性になりかけている、独特の手触りにひかるは少しどきりとする。
(やっぱり女の子なんだよなぁ)
「お兄ちゃん? どないしたん?」
突然手を止めたひかるをはやてが心配する。
「ああ、何でもねぇよ」
そう言うとお湯をはやての背中にかけるひかる。
少し熱めのお湯が泡を洗い流していく。
「それでは湯船につかりましょー」
「おー」
バスタオルを巻きなおしたはやてが浴槽の左側、
腰のタオルを代えてきたひかるが浴槽の右側に入る。
程よい温度のお湯に入り、思わず恍惚の表情を浮かべるはやて。
あまりにお湯が気持ちよいのか、眠りに入りかけているひかる。
そのままの状態でぼけーとすること三十分。
……………………………………………………………………………
「ぶはあっ!」
「ど、どないしたんや!?」
「い、いやその、溺れかけた」
ごほごほと咳き込むひかる。
苦しそうなひかるの背中を優しくさすってあげるはやて。
「もー、湯船の中でボーっとしとるからやで」
「そうだね………、そしたら上がろうか」
苦笑いを浮かべながら浴室から出て行くひかる。
そのあとを追って湯船からあがるはやて。
十分くらいして、二人はリビングで扇風機を浴びていた。
もちろん八神家にも無理してつけたクーラーがあるのだが、
電気代を食うし、何より援助してもらっている人にこれ以上の料金アップは頼めないということで、
現在はよほどの温度にならない限りは使用を禁止されている。
そのようなわけで、現在は氷結魔法を使って涼んでいるしだいである。
「そよげ〜、涼風〜」
ひかるの手から程よい涼しさの風が吹く。
そのひかるの手に顔を近づけて火照った体を冷やすはやて。
「ふわ〜、涼しい〜………」
「………それはよかったけど、氷結魔法ならリインも使えるじゃん。
わざわざ俺に頼まなくてもリインならすぐにやってくれるだろ?」
「あー、それダメや」
「ダメ?」
「リインの場合、出来ることといったら本当に凍らすだけや。氷柱だしても融けた後が問題になるやろ?」
その言葉を聞いてようやく意味を理解するひかる。
「だからお兄ちゃんに頼むのが一番ええんよ♪」
「それはどうも………」
自身が扇風機だけしか使用できないのでまだ熱を逃がしきれてないひかる。
あーとかうーとか言いながらも風を送り続けてくれるひかるを見て微笑むはやて。
「あ! そやそや」
「ん? どしたー?」
いそいそとキッチンに向かい、冷蔵庫を開けてなにやらごそごそやってるはやて。
困惑気味の表情でそれを見つめていたひかるに、はやては持ってきたものを差し出す。
「はい、アイス。 最近買っておいたの忘れとったわ」
「ああ、でもいいの?」
「かまへんかまへん。 放置してあるって事は食べてもいいのと同義語や」
そう言いながら二本で一つのアイスのうち、一本を差し出してくるはやて。
「じゃあ………、もらっとこうかな」
「えへへ」
そしてひかるがはやてからもらったアイスを口に入れた瞬間。
「あーっ!」
突然大声を出したヴィータに驚くひかる。
「ど、どした?」
「それ、あたしのアイス……………………」
「「えっ……………?」」
瞬間的に固まるはやてとひかる。
目が本気になっているヴィータは無言でグラーフアイゼンを起動する。
そのままじりじりと近寄ってくるヴィータ。
その異様なオーラにたじろぐひかる。
「う」
「う?」
「うがーっ!!!」
その後、ひかるが一時間ほどヴィータに追い掛け回されたのは言うまでもない。
「そんな一言で簡単に済ませてんじゃねーーーーーーーっ!」
「轟天爆砕!ギガントシュラァァァァァァァァァァァァク!!」
「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああっ!!!」
………おしまい。