時空管理局、本局の一室、
ここに、とあるデバイスを完成させようとしている少年がいた。
白衣を身にまとい、安全の為にゴーグル着用。
一見、マッドな科学者にも見えなくは無い。
彼の手にはなにやらわけのわからない装具が握られていて、
その先からはなにやら魔力光らしきものがほとばしっている。
そのままの状態で作業を続けること、数十分。
ふう、とため息をついた彼は、おもむろにゴーグルをはずす。
澄んだ蒼色に染まっているその目には、期待の色が濃く出ている。
「………できた!」
彼はゆっくりと、自分が作っていたものを入れたケースを開ける。
できる限り慎重に、ゆっくりと、繊細なものを扱うように。
そしてケースが外れたとき、『彼女』は動き始めた。
ゆっくりと体を起こし、まぶたを開く。
澄んだ緑色の瞳に宿る光は純粋な気持ち。
薄い金髪の髪を、彼の知っている女性でいうならば、
シャマルより少し長めの位置まで伸ばしている。
ほっそりとしていて、かつバランスの取れた体形。
誰からみても、その女性は美しかった。
普通の身長ならば、の話だが。
彼女の身長は、せいぜい30センチといったところだろうか。
何処からどう見ても、普通の人間よりは小さいと思われる。
そんな彼女を少年は優しく手にとる。
彼女は、そんな少年に微笑みかける。
そしてゆっくりと唇を開き、一言。
「お久しぶりです、ひかるさん」
そのとき、少年は、白い歯を見せて、笑っていた。
「ただいま〜」
少年、八神ひかるは自宅のドアをあけて中に入る。
その肩には、ショルダータイプのバッグが下げられている。
玄関で靴を脱ぎ、比較的上機嫌でリビングに足を踏み入れる。
洋風のテーブルにはなぜかせんべいがあり、イスにははやてが座っている。
緑茶らしき飲み物を飲みながらぱりぱりとせんべいをかじるはやて。
そのはやての向かいの席にひかるは腰掛ける。
「ああ、お兄ちゃんおかえり」
「思い出したように言いやがるなこいつは」
それは堪忍や、といいながらひかるにもせんべいを勧めるはやて。
ひかるは渡されたせんべいをかじると、カバンのファスナーをこっそりと開けた。
その様子に気づかず、黙々とせんべいを食べるはやて。
「お前はハムスターか」
「………もう少しかわいげのある動物っておらへんの?」
「じゃあリス」
「………ならハムスターのほうがええわ」
そう言って席を立ち、新たな飲み物を補充してくるはやて。
その様子を見て、ひかるはとある話題を切り出す。
「なあ、はやて」
「ん?」
「もう一人家族が増える、っていったらどうするよ」
ひかるの質問に対してきょとんとしているはやて。
彼女は少し腕組みをして考え込んでから、
「別に、今までどおりやん。 迎え入れるよ、よろこんで」
その言葉を聞いて、彼は心の中でよっしゃ、と叫ぶ。
「で? なに拾ってきたん? 犬?それとも猫?」
「ふっふっふー」
「……………………………?」
はやてがきょとんとしたその瞬間、
ひかるのカバンの中から新しい家族が飛び出した。
「えーと、始めまして。 フィリス・アニーシェです♪」
突然現れた身長三十センチくらいの女性にびっくりしたはやて、
慌てて倒れそうになった体をささえ、イスに座りなおす。
「うわっ! おっどろいたなーもー
お兄ちゃんいつの間にユニゾンデバイス作っとったん?」
「今日完成した。 んで、今日から八神家でお世話することにしたんだ」
「勝手やなー、少しは家主の意見とか聞いたらどうや?」
「ある意味では俺も家主。 だからいいんだよ」
ほんまに勝手やなー、と言うはやて。
しかし、そんな彼女の顔も、喜びで満ちていた。
「あのー、リインフォースさんって何処にいらっしゃるんでしょう?
一度会ってお話をしてみたいなーと思ったりしてるんですが」
「ああ、リインは私が呼んだらすぐにでも来るんよ」
「呼びましたかー? はやてちゃん」
はやてがリインの名前を会話に出しただけで現れたリインフォース。
彼女もまた、フィリスの存在を見て驚くわけだが。
「うわーっ♪ 私とおんなじユニゾンデバイスなんですかー?」
「ハイ♪ 正真正銘のユニゾンデバイスですよ」
「じゃあひかるさんとユニゾンするんですか?」
「基本的には。 もちろん八神家の皆さんともできますよ」
と、まあこんな風にデバイスらしい会話が交わされている。
傍目から見れば小さい女の子二人が喋っているだけだが、わけのわからん内容で。
そんな二人を横から優しく見守るはやてとひかる。
等身大の友達ができて嬉しそうなリインフォースと、
同じく始めての友達ができて嬉しそうなフィリス。
二人の会話はとどまるところを知らず、夕飯の時間まで続いた。
「なるほど、こいつが新しい家族、というわけか?」
「ずいぶん小さい人ですね〜」
「シャマル、そこはボケるとこじゃねーぞ」
「お前ら、少しはまともに嬉しがったらどうだ?」
最後に出番が少ないバター犬の突っ込みが入ったが、
それを完全に無視して食事を続ける三人。
「ザフィーラ、お前結構苦労人だな」
「同情はいらん。 俺は守護獣だからな」
偉いよお前、と言いながらひかるはご飯を口に運ぶ。
そうでもないがな、といいつつザフィーラもドッグフードを食べる。
それから少し時間がたった後、
はやてはベランダで星を眺めていた。
リビングではまだ、ヴィータとひかるがご飯を食べている。
二人とも、あきれ果てるレベルの食欲だ。
互いに意地の張り通しとなっているのか、
皿の料理をすべて食い尽くすまで二人は食べるのをやめようとしない。
挙句の果てに目を回して倒れる二人を見てため息をつくはやて。
そのはやての肩に飛び乗る影が一つ。
「おろ?フィリスさん、であってたっけ?」
「ええ、間違いないです」
自分の肩に飛び乗ったフィリスに気さくに話し掛けるはやて。
笑顔でそれに応じ、はやての横に並ぶフィリス。
「お兄ちゃんとはいつ頃からの知り合いなん?」
「ええと、いつ頃からでしょうか………、よく覚えてないです」
「じゃあ、今何歳?」
「唐突ですね。今現在は、ゼロ歳になるんでしょうか?
正確には四十億歳、くらいでしょうか」
「へー、そしたらだいぶ年寄りなんやね」
「ええ、はやてさんがうらやましいくらいです。若々しくて」
「はっはー、まだ十二歳やからなー」
そう言ってベランダの手すりにもたれかかるはやて。
その様子を見てフィリスはくすくすと笑う。
「はやてさん」
「んー?」
「ひかるさんのこと、きちんとフォローしてあげてくださいね。
あの人、いつも無茶なことばっかりしてはみんなに心配かけますから」
「わかっとる。 この前でいいだけ思い知らされたわ」
「だといいんですけど」
なんやそれ、と首をかしげるはやて。
「………あの人の『無茶』は、普通のレベルじゃないってことなんです。
……………時には、命に関わるくらいのときもありましたから」
「………………………………………………………」
「だから、お願いです。あの人に、ひかるさんに、決して無茶なことは、させないでください」
ぺこり、と頭を下げているフィリスをはやては優しくなでる。
「大丈夫。 私が何とかする。 だから、フィリスも協力してな?」
「…………………はい!」
天に煌めくあふれんばかりの星の絨毯。
その空の下。夜天の王と、聖なる巫女との間に、
一つの約束が、交わされた。