高町家の縁側で、なのはの兄、高町恭也は夕涼みをしていた。

と言っても現在の気温は三十度、とても涼めたものではない。

 

それでも彼が涼むのには………、特別な理由なんてない。

強いてあげるとすれば、自分が日本人であるから、ぐらいだろう。

 

とまあそんな感じで団扇片手に空を見上げていた恭也はある音に気づいた。

 

どーんとか、ぱーんとかいう音とともに緑や赤、

その他いろんな色の光が夜空に浮かび上がる。

 

「………花火か? そういえば近くの公園で花火大会があったな」

 

その音を聞きながら、また恭也は空を見上げる。

そうしているうちに、彼の頭にいろんなことが浮かんできた。

 

フィアンセである、月村忍のこと、

父士郎や、母桃子のこと、

妹である美由紀やなのは、

それに、これからのこと。

 

全部に、きちんとした決着はつかないかもしれない。

でもそれでもいいと、恭也は思う。

 

自分がつけるものは、決着なんかじゃなく、

心の整理だと、彼は知っているから。

 

 

「それにしても、暑いな、今日は」

 

恭也は団扇を仰ぐ。

とはいっても周りの温度は自分の体温とはわずか六度しか違わない。

吹いてくるのは、ぬるく湿った風だけだ。

 

そうして少し茹だりながら団扇を仰いでいると、

誰かの足音が響いてきた。

 

「………なんだなのはか。 今日は仕事早かったんだな」

 

「あ、うん。いつもよりはね。 えと、お兄ちゃん、隣、いい?」

 

寝巻き姿に着替えているなのはは恭也の隣に座る。

風呂に入った後なのか、なのはの肌はほんのりと桜色に染まっている。

 

その肌に少しどぎまぎしながら恭也は話し掛けた。

 

「どうだ、最近。 その、時空管理局の仕事のほうは」

 

「まあ、順調かな? この前だって、大きな事件ひとつ解決したし」

 

「そうか、がんばってるんだな、なのはは」

 

恭也はなのはの頭をなでてやる。

 

「………………………………………………」

 

「?」

 

微妙に、しかし確実になのははふさぎこんでいる、と恭也は思った。

しかし、そう簡単になのはが相談事を持ちかけてはこないことも、恭也は知っていた。

 

(昔から辛いことや嫌なことは溜め込むタイプだったからな………)

 

彼女の悪い点はそれだ、と恭也は思っている。

しかし、その部分をそう簡単に変えることができないことも、恭也は知っている。

 

その点をすべて踏まえたうえで、恭也はなのはに話し掛けた。

 

「………なにか、つらいことでもあったのか? 誰かに相談したら、楽になれるかもしれないぞ?」

 

その言葉を聞いて、なのはが顔をうつむかせる。

やはり何かあったのだな、と恭也は思った。

 

そして、なのはは一瞬顔を沈めてから、こう呟いた。

 

「あの子ね、また、任務中に無茶したの」

 

その言葉を聞いて、恭也は思い当たるふしを探す。

そして、多分今回無茶をしたのは、数日前に家に来た、

どことなく自分と似た雰囲気をもった、炎髪蒼眼の少年のことだろう、と当たりをつけた。

 

「今回の任務で、局員の人たちが撤退に手間取っちゃってね。原住生物たちに襲われて、全滅しかけてたんだ。

 そこへ、ひかるくんが突撃していって、みんなが避難するまで、ずっと一人で、結界魔法を使い続けてね。

 それで、私が駆けつけたときには、ひかるくん倒れてた。

 シャマルさんは、強力な魔法を使いすぎた反動だって言ってたんだ」

 

でもね、となのはは言葉を切る。

 

「なんで、無茶しちゃうのかなぁって、ひかるくんには待っている人がたくさんいるのに、

 あんなこと続けてたら、きっといつか、大切な人のところに帰れなくなっちゃうかもしれないのに」

 

なんでなんだろ、となのはは言う。

 

恭也は、そのとき少年のほうに共感を持っていた。

たぶん自分と同じ選択をした、その少年に。    

 

「多分……、だけどな。 その子は護りたいから、無茶するんだと思う」

 

「護り………、たいから?」

 

「そう。 たとえば、なのはだって、友達が困ってたら助けに行くだろ? 多分、その後のことなんて、何も考えもせずに」

 

「う…………………」

 

「それとおんなじさ。 彼は護りたいんだよ。 その逃げ送れた人たちを、その人たちを大切に思っている人たちを」

 

恭也の言葉を、なのはは噛み締めるように聞いている。

 

「ただ、彼はまだよくわかってないんだと思う。 自分のことを大切にしてくれる人も、たくさんいるってことを」

 

自分にも言い聞かせるように、恭也は言う。
かつて犯した自らの無謀さを、振り返る意味も込めて。

 

「ま、みんなまだ若いんだ。いずれその子もわかってくれるさ」


それを言ってしまうと恭也は老成しすぎているということになるのだが。

「本当に、わかってくれるのかなぁ………」

 

大丈夫、と恭也はなのはを励ます。

 

「この世の中に、届けられない思いはない。伝えられないこともない。 これは、なのはがいつも言っていることだろう?」

 

「………うん!」

 

なのははそういうといったん立ち上がった。

だが、すぐに恭也の横にまた座り込んだ。

 

「どうした?」

 

「んー? なんとなく、このままがいいかなって」

 

そう言うとなのははちょこんと恭也にもたれかかった。

そのかわいらしいしぐさに思わず恭也はドキッとする。

 

しかし彼も達人。心の制御には多少長けている。

すぐに平静を装い恭也はまた空を見上げた。

 

(認めたくはないが………ロリ、およびシスコンなのかもな………)

 

などとアホな事を真剣に考える恭也。

なのはは恭也の顔を見ていたずらっぽく微笑んだ。

 

相変わらず空は暗く、聞こえるのは虫の音と花火の音ばかり。

そしてその音を聞きつけたなのはは急に立ち上がると、

 

「ねぇお兄ちゃん。まだお祭りって、やってるのかな?」

 

「ああ、確か十時過ぎまではやるらしいが………、もしかして、行きたいのか?」

 

こくん、となのははうなずく。

仕方ない、といった感じで起き上がる恭也。

 

「わーい♪ 何かってもらおっかなぁ♪

 えーと、焼きそば、リンゴ飴、それにお好み焼き!

 あと綿菓子とか金魚掬いとか。 それと射的とかもやりたいな〜」

 

自分の財布の中身を確認しながら恭也は言う。

 

「二千五百円か………今月は少し使いすぎたな」

 

財布をポケットに戻し、なのはの後を恭也はついていく。

 

「言っておくが、今日も鍛錬があるんだ。 あまり遅くまではいられないぞ」

 

「それでもいいよっ!その分楽しめばいいんだから」

 

その言葉とともになのはは駆け出す。

その後を小走りで追っていく恭也。

 

夜の空にはきれいな星と月。

そして暗黒のスクリーンに浮かび上がるのはさまざまな色の花火。

 


 

天を仰げば見えるのは光に彩られた輝きの世界。

 

たまにはこんな夜空もいいものだと思いながら、

 

高町恭也は妹とともに公園まで駆けて行った……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

そしてあとがき、

 

えーと、まずはこのSSを書くきっかけをくれた月読八景さん、

大変ありがとうございます。

 

俺の拙い文ではこれが限界ともいえます。

まだSS書き始めて五ヶ月ですからね。

 

今回のテーマは微妙に『家族』や、『きょうだい』なんです。

わかりにくかった方も多いと思います。

 

とらハでの恭也を知らないこと、

原作をプレイするには年齢的な問題があること、

その他いろいろな問題があり、『きょうだいらしさ』を表現することができなかったかな、と思います。

 

今回の恭也は助言を与え、救いをもたらす役です。

こういうきょうだいもありじゃないかなーとか、

自分も弟妹とかにこうしてあげたいなーってのも入ってます。

 

まあ短すぎるのと稚拙すぎるので二重にわかりにくくなってますけどね!

 

とまあそんなわけで、これがリリなの系列のSSで始めて書いたあとがきです。

 

このような馬鹿らしい文を書く作者ですが、

これからもよろしくお願いします。

 


 

 

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