始まりは些細なきっかけかもしれない。

 

でも、そんなきっかけがいっぱい集まって、

 

それで、この世界はつくられていると、私は思うから。

 

望んだことが叶わなくても、

 

救いが欲しいときに、誰も手を差し伸べてくれなくても、

 

それでも、いつかは、

 

すべてうまくいくと信じて。

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

闇。

 

真の闇という形容が最もふさわしいその姿。

 

漆黒の衣服を身にまとい、

 

手には二本の剣を携えて、

 

世界に仇名すものたちを狩る。

 

今回のお話はそんな宿命を背負わされた少しネガティブな少年と、

 

とあるきっかけで魔法を使うことになった、

 

とある少女達のお話です。          

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真っ暗な空。

 

それはどこまでも深く透明で、

どこまでも、無限に続いている。

 

こうしてビルの屋上に座りながら、彼は何度、月を眺めていたのだろう。

 

幾度となく、空を見上げてきた自分でさえも、空を見上げられなくなる日は、来るんだろうか。

 

いや、それ以前に最後の夏に見上げた空は、どんな色を、してたんだっけな。

 

そう、彼は心の中で呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

『闇の書事件』と呼ばれる事件から3年が経った。

とある事情でその戦いに参加した人々は、平穏で、且つ忙しい日々を送っていた。

だがその日常は、簡単なことで覆される。

とある少年の、悲しい復讐劇によって。

 

 

 

 

 

 

 

 

「A級探索指定のロストロギア(古代遺産)!? どうしてそんな物の情報がここに!?」

 

ここは時空管理局の本局の一室。 通称、しなくもないが執務官が使う部屋である。

部屋の中央の椅子に座っているのが時空管理局の執務官、クロノ・ハラオウンである。

 

「私たちもたった今知ったのです。本日管理局のコンピュータに何者かが侵入、今執務官にお渡ししたデータを残して逃走いたしました」

 

「ロストロギア、『世界樹の種(シード=オブ=ユグドラシル)』………」

 

執務官、クロノ・ハラオウンが持っている一枚の写真。

そこに写っているのは、何の変哲もないただの豆。

 

「………デマじゃ、ないのか?」

 

クロノは訝しげに局員に尋ねる。

どうひいき目に考えてもこれは単なるいたずらに過ぎない、とクロノは思う。

どこの世界にわざわざ犯罪の情報を残して去っていくハッカーがいるのだ、と彼は思う。

「デマではないようです。 先ほど、無限書庫に問い合わせた所………」


と言って局員は新たな紙を取り出す。

「過去にも、同じようなものが発見されている、とのことです」

 

「……………信憑性は?」

 

「確かだと思われます」

 

クロノはしばし腕を組んで考え込んでから、席を立ち、

 

「よし、この事をリンディ提督に伝えろ。 僕も用意ができたらすぐに捜索を始める」

 

「了解しました」

 

(さて、探索するとは決めた、しかし………)

 

あまりにも情報が少なすぎる、とクロノは思った。

なにせ書かれていることといえばロストロギアの危険度くらいなもの。

 

(これで探せというのも、ちょっと面倒だな………)

 

とりあえず無限書庫で過去の事件の情報でも集めるかと思い立ったとき、

 

 

『クロノ・ハラオウン執務官ですか?』


 

ふいに、誰かが念話で話し掛けてきた。

 

『誰だ?』

 

『貴方の質問にこちらが答える必要はありません。 こちらからは用件だけ言い渡します』

 

その高圧的な物言いにクロノは少し反感を覚えた。

初対面で高圧的、あまりいい印象を受けるものは多くないだろう。

『君が何者かは知らないが、こっちだって忙しいんだ。 わけのわからない奴の話なんか………』

 

『この件に、関わるな』

 

『………どういう、意味だ』

 

クロノがそう言葉を投げかけると声の主は一瞬沈黙して、

 

『それがわからないほど、貴方は馬鹿ではないでしょう』


あくまで諭すように、しかしとことん皮肉を込めて、

クロノ・ハラオウンという人物に、精一杯の警告を下した。

『………君は、よっぽど僕達を敵に回したいらしいね』

 

『そう思いたければ勝手にどうぞ。 ただし何度でも忠告します、この件に、時空管理局は一切関わるな』

 

そう言って、声は途切れた。

ふう、と息を吐いてクロノは椅子に座り込む。

 

「正直な所、その申し出は受けられないね………」

 

こっちにだって、プライドぐらいある、と言ってクロノは部屋を出る。

 

「それにしても………、奴は一体………」

 

 

 

 

 

 

月明かりがさすビルの屋上。

その月を、見上げている者がいる。


血液よりも鮮やかな真紅のコートを羽織り、インナーには黒のシャツを着ている。
細身な体に合うように、薄めのストレートパンツをはいて、ベルトを緩めてある。
風になびかせている、腰まで届いた銀髪と、黒がかった赤色の瞳。

聡明さ、威厳、そして純粋な好奇心に彩られた瞳を、男は自分の手に向ける。

銀髪の男が持っているのは小さな種。

しかしその種は数十億年前に絶滅したはずの種。

 

月の光を受けて怪しく輝くその種を、男は静かに見守っている。

まるで、子供の寝顔を見るように。

 

「さて、今宵も…………………」

 

ふと気づくと、男の周りには何人かの魔導師が立っていた。

彼らはみな、殺気を全開にして思い思いの武器を構えている。

 

「強者を、狩るか」

 

男がその言葉を発した瞬間、魔導師たちは魔法を放つ。

彼らの使う魔法はさまざまで、普通ならその攻撃を防ぐのは難しい。

 

しかし、その男は、一瞬のうちにそれらすべてをかわし、

自分の足元に見慣れない魔方陣を展開させ呪文をつむぐ。


呪文の最後の言葉が切れると同時に透き通る水色の槍が、魔導師たちを貫く。
ほんのわずかな間、時間にして十秒もない間に男はその場の全員を倒してしまった。

「ぬるいな………、この程度で魔導師を語るなど不届き千番。 次は……、もっと強い相手とやりあいたいものだ」

 

男は置いてあった杖のような物を担いで歩き出す。

そして懐から写真を何枚か取り出す。

 

「時空管理局……………」

 

その写真には、

 

「貴様らは私を愉しませてくれるのかな?」

 

三人の魔法少女の姿が映っていた。

 


 

 

次へ進む   トップに戻る