妙に静まりかえっている建物の中。
無理もない、本日土曜日午後二時半!
普通だったら誰も今俺がいるところにはいない!
何で俺がこんな所にいるかと言うと、………なんでだろうね?
今俺がいるのは初音島の私立学校風見学園。
ちなみに階数は二階。
別に学校へ行きたくもないし行けもしない俺が、何でこんな所にいるんだろう。
事の始まりはどうだったか、それも覚えてない.
とりあえずこの暑さを何とかしたくて涼むとこはないかとひたすら歩き、
缶ジュースを買う金も持ってきてないことを思い出して、
挙句の果てに熱射病で倒れそうになり通行人に迷惑をかけ、
それで、………どうなったんだっけ?
確かその人が救急車呼ぼうとしたから逃げ出して………
それで逃げ込む所はないかと思ってここに入ったんだっけ。
なんという恩知らずの馬鹿なんだ俺、と一人で鬱モードに入って、
で、前からどんなもんかと興味あったし見学ということで自分をごまかして………
………で、今ここにいるんだっけ。
一階は大体見終わって上に行ったはいいけれど………
……………どこに行けばいいんだか。
ああ、建物って本当に嫌いだ。狭いスペースを無理矢理区分けしやがって。
迷う人のことまったく考えていないじゃないかっ!
大体なんでここに来たかなぁ、頭どうかしてたんじゃないのか俺。
ううむ、右に行こうか左に行こうか。誰の助けも借りられないって大変なんだなぁ。
せめてここに詳しい人の一人や二人ぐらいいても………
まあ探すのも無理だとは思うけどね。
それにしても………休業日なので全くといっていいほど人はいない。
教員の人でもいないか……と思ったけど、それも外れた。
この学校大丈夫なのかな?誰もいなくて。
………今気づいた、これって家宅不法侵入罪じゃねーかっ!
誰もいない=誰にも許可とって無い!
ま、まずいぞ、この状況で誰か来たら大変なことになる。
はいってもここの地理は俺にはさっぱりだしっ!
孤立無縁ってこの事言うんだろうか。
あ、でも話のわかるやつなら問題ないか。
できることなら姫乃がここにいてくれると助かる………
………いるわけないじゃん。ここに。 休業日だし、道化師の練習にでも行ってるんだろう。
だとしたらどうするか、まずはこの学校からの脱出について考えるか。
「ちょっとアンタ!ここで何やってんの?」
まずいっ!見つかった!
「その格好、ここの生徒じゃないよね。 何でこんなとこにいるか、説明してくれない?」
うわ、最悪。最早距離詰められた。
「………見学」
信じてもらえんだろうね。 はっきり言って、挙動不審だもん。俺。
「見学〜? それ、本当の話?」
訝しげに見るな、訝しげに。
今度はしげしげ見るなっ!
それにしても誰だこいつ。
初対面の相手にここまでずかずかともの言うやつ始めて見たぞ。
大体なんでこいつもここにいるんだ? 学校は休みだろ?
というか………フルート? 何でそんな物持ってるんだこいつ。
………もしかしてフルート奏者? こいつが?
に、似合わね〜〜〜。せ、繊細には見えね〜〜〜。
などと腹の中でおかしくて転げ回ってるとそいつはさらに距離を詰めて、
「ま、いいけど。私の練習の邪魔だけはしないでね」
言ってすたすたと立ち去っていった。
あっけにとられること、約五分。
いや、長いっつーの。
「………なんだったんだあいつは………」
その後、やっぱり迷いっぱなしの俺。 現在(たぶん)三階。
階段上ったし多分間違いは無い………、と思う。 そう信じたい。
この辺は教室だらけでさらに迷いやすい。
どこをどう回ったか、なんて完全に忘れている。
このままでは明日までいることになるかも。
う〜む、それはそれで怖いな。
とにかく、前進しよう。 出口はあるはずだから。
「あの〜、どちら様でしょうか〜?」
またかっ!またこのパターンか!
ああちくしょう、何でこんなに人と出会うんだこの状況で!
ついさっきまで誰一人として気配を感じなかったんですけど!?
おそるおそる振り返ってみると、
そこには………スティック? を持った人が立っていた。
あのスティックは………木琴か何かのだろうか。
ということはこの人は吹奏楽部などの音楽系! よかった〜、練習とかしてたのか〜。
「あの〜〜〜〜〜……………」
ああ、忘れてた。質問されたの俺だっけ。
「見学者、です」
嘘は言ってないと思う、……………自信ないけど。
「ああ、そうなんですか〜。 え〜と、お名前は〜?」
納得するんか、そんでもって最初に聞くのが名前かい。
「トーヤ、です」
「そ〜ですか〜、たかやくんですか〜」
「トーヤです、と、う、や」
と、もう一回丁寧に説明しているのにもかかわらず。
「たくやくんですね〜」
………やめよう、突っ込むだけ無駄だ。
この人とこの調子で話していたら本気で日が暮れてしまう。
「あの〜、眞子ちゃん見ませんでした〜?」
「眞子?失礼ですが、どなたですか?」
「あ、申し送れました〜、私水越萌っていいます〜。 眞子ちゃんは私の妹です〜」
妹? 見たかなそんなやつ。
「なんか特徴とかは?」
「あ〜、フルート奏者です〜」
それしか情報が無いのか!? もっとこう外見的特長とかが出てこないのか! って、あれ?
フルート奏者、 ということはまさか………、あの勝気で人見知りしなそうなやつがこの人の妹!?
あ、ありえん。絶対ありえん。 こ、こんなぼけぼけの人の妹が、あんだけ勝気なわけあるかーーーっ!
「あの〜、本当に知りませんか〜?」
「………この学校のどこかにいるんじゃないすか」
「あ〜、そうですね〜。それじゃ探してみます〜。 失礼しました〜」
それで納得すんなよ、それで。
本当になんなんだよ、一体。
現在、三階(であることを祈る)。 もちろん、迷いっぱなし。
うむむ、本当に困った。登ってきた階段の位置がわからん。
いや、屋上に続く階段はあるんだけどさ。目の前に。 その隣に下り階段もあるんだけどさ。
ここ降りたらさらに迷う気がして困ってんだよね。
ええい!降りよう!ここでこうしてても始まらない。
意を決して階段を降りる。 別に決するほどのことじゃないと思うけど。
………なに階段下るだけなのにこんなに緊張してるんだか。
………………アホらしい、普通に降りよ。
「………どちら様?ここで何やってるんですか?」
またですか、そうですかまたですか。
いい加減にしてほしいっつーの!何度も何度も!
俺はてめえこのやろいい加減にしやがれと言う台詞を………
後ろを向いたとたん、飲み込んだ。
相手………女の子じゃん。 この野郎、はないよな、うん。
「あの、質問に答えて………」
「見学者ですっ!以上!」
よほど、怒っていたのだろうか、俺は普通より大きな声でそう言った。
「じゃあ誰の許可取ったんですか? 校内を部外者がうろつくって事は教員の方の許可がないと………」
………あーもーしつこいなこいつーーーっ!
「ちょっと、聞いてるんですか?」
俺が質問に答えないのが不満なのか相手はさらに問い詰めてくる。
こちとら質問攻め+歩き詰めで結構イライラしとんじゃー!
「聞いてますよ、許可でしょ? 別に誰にも話し通してませんよ。誰もいなかったから」
「あ、そうなんですか………」
困ったなー、と首にチョーカーをつけた女の子は呟く。
今更困ったもクソもないだろうに。
お前は許可とってここにいるわけじゃないから出てけ、それだけでいい。
ただそれだけ言えば、さっさと出て行くのに。
「と、とりあえず見学くらいならいいですよ、この学校見て回っても」
何でこんな台詞を言うかなぁ!?
何?この学校にはお人よしが多いんですか? それとも天然形が多いんですか?
大体常識から少し外れてるだろ、部外者、それもかなり怪しい奴になんで許可出しちゃうかな!?
ものすごいお人好しなのか、それとも、ものすごく権力があるのか。
でも、これのおかげでここにいても問題ないわけだし、それでいいか。
「どーもありがとうございます」
「あ、いえ。 気にしないでください」
というわけで俺はお礼を言ってその場を離れる。階段を下って一階を目指す。
………脱出できるかどうかは、わからんけど………
現在、一階(これは間違いない。 だってグラウンドと校舎の床が同じ高さだ)。
出口には近づいている(と思う)。 確証は、まったくない(やっぱしか)。
とにかく右に左に歩いているため現在地がわからない。
俺って真性の方向音痴じゃないのだろうか。
いや、今日のこれまでを反芻する限りそうなのだろう。 絶対。
よし、それでは勘に頼るとしよう(危険だが)。 目を瞑ってぜんし〜〜〜ん!
二、三歩進んだ後、ごん!という音とともに仰向けになってぶっ倒れる。
い、痛い!壁か!ちくしょう!
やっぱり目をあけて前進、曲がり角を右に曲がる。
そのまましばらく進むと………、見えた。玄関だ。
はーーー、よかった。これで出られる。
気を抜ききって玄関に靴を履き替える。
と、その時。ふわっ、と、何かが薫ったような気がした。
「ん?」
顔をあげてみると、そこには、白河ことりが立っていた。
相変わらずの整った顔立ち、くっきりとしたまぶた。
声もきれいなソプラノボイスで、上品さと優雅さを感じさせる。
「こんちは」
と普通に挨拶したら、
「こ、こんちはっす」
と、少し遠慮がちに答えられた。
人見知りとかするタイプなのかな?
まあ別に何してるのとか聞かれなかったし、別に話す必要もなかったので通り過ぎようとしたら………
「あ、あのっ!」
なんかかしこまったような声で呼び止められた。
何故そんなに他人行儀なのか、何故そんなに怖がった口調で話すのかと、
そう思って彼女のほうを振り返ったとき、いや、振り返ろうとしたとき。
心の中がわからない、だから、少し怖い、そんな心の声が、聞こえた気がして。
だから、俺はできる限り不安をもたせないようにして、
満面の笑みで、振り返った。
危険心や、不安や、未知への恐怖。
そんな物、全部吹き飛ばせるぐらいの笑顔で、
『怖がらなくてもいい』
そう、心の中で呟いた。
その声が聞こえたかはわからない。
でも、多分わかってはくれたのだろう。
彼女も、さっきとはうって変わって、
満面の笑みを、浮かべていたから…………………
続く…
あとがき、
いつの間にやら更新が遅くなりまして、
久しぶり、の方もいらっしゃると存じ上げます。
この話も反省点大有りなのですが、
まず、状況が少しおかしい、
いくら見学とはいえ休みの日にあれだけの人に会うのはちょっとな………
まあよほど皆さんやることがあるので、ということにしてください。
この話でまたまたキャラが増えました。
今回名前が出てこなかった人の名前を当てられた方はすごいです。
私の拙い文章から想像してキャラを当てることのできた貴方は想像力MAXの人です。
認定証も何もありませんが拍手します。パチパチパチ〜。
今回もわけのわからんあとがきですが、
読んでくれた皆さん、本当に感謝しています。
それでは。